平成30年12月25日、農林水産省で「第1回 農泊推進のあり方検討会」が開催されました。海外からの観光客を都市部だけでなく、日本全国の農村にも行ってもらおう!という検討会です。
農泊推進のあり方検討会では、「農泊」を平成32年までに持続的なビジネスとして取り組む地域を500地域創出することを目指しています。
日本政府が取り組んでいる訪日外国人旅行者数の増加、地方部での訪日外国人宿泊者数の増加に資するため、農泊推進地域においても、インバウンドの受入を拡大していく必要があるのです。
農泊推進の現状と課題について
農山漁村における人口減少・高齢化の進行
- 山漁村における高齢化・人口減少は、都市に約20年先駆けて進行。
- 特に3大都市圏以外の地方において、人口減少と高齢化が急速に進展し、2035年には3大都市圏以外で21.6%の人口減少と37.0%の高齢化が同時に進行。過疎地域等の集落単位でみると、約5%の集落が無居住化の可能性があり、その比率は年々増加している。
- ⇒ 人口減少・高齢化局面にある農山漁村地域の活性化・人口流入が課題。
これまでの都市農村交流の取組
- 平成4年の「新しい食料・農業・農村政策の方向」において、グリーンツーリズムの振興を図ることが明記され、平成6年の「農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備に関する法律(議員立法)」により農林漁業体験民宿の登録制度が整備された。
- 平成15年には「オーライ!ニッポン会議」が発足し、都市と農山漁村の共生・対流という国民運動が推進され、平成20年度からは、文部科学省、総務省、農林水産省の3省連携による「子ども農山漁村交流プロジェクト」が立ち上がった。
- ⇒ 農山漁村における交流人口の増加、所得の確保を図るには、持続的な産業とする必要があり、そのためには法人格を持った推進組織を整備し自立的な運営を図っていくことが課題。
観光立国推進施策における位置付け
- 農泊は、「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月30日)において、「日本ならではの伝統的な生活体験と非農家を含む農村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」を推進する」と位置づけられ、積極的に展開。
- 「観光立国推進基本計画」(平成29年3月28日)、「農林水産業・地域の活力創造プラン」(平成30年6月1日)では、農泊をビジネスとして実施できる体制を持った地域を平成32年までに500地域創出することとされている。
「明日の日本を支える観光ビジョン」(平成28年3月30日策定)
「明日の日本を支える観光ビジョン」では、滞在型農山漁村の確立・形成を目指し、日本ならではの伝統的な生活体験と非農家を含む農村地域の人々との交流を楽しむ「農泊」を推進する方針が示されています。
- 観光資源の魅力を極め、地方創生の礎に
- 観光産業を革新し、国際競争力を高め、我が国の基幹産業に
- 全ての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に
〈目標〉
- 訪日外国人旅行者数を2020年までに4,000万人に(2017年…2,869万人)
- 訪日外国人旅行消費額を2020年までに8兆円に(2017年…4兆4,161億円)
- 地方部での外国人延べ宿泊者数を2020年までに7,000万人泊に(2017年…3,188万人泊)
「観光立国推進基本計画」(平成29年3月28日閣議決定)
滞在型農山漁村の確立・形成農泊ビジネスの現場実施体制の構築、農林漁業体験プログラム等の開発や古民家の改修等による魅力ある観光コンテンツの磨き上げへの支援を行うとともに、関係省庁と連携して、優良地域の国内外へのプロモーションの強化を図り、農山漁村滞在型旅行をビジネスとして実施できる体制を持った地域を平成32 年までに500 地域創出することにより、「農泊」の推進による農山漁村の所得向上を実現する。
「農林水産業・地域の活力創造プラン」(平成30年6月1日改訂)
「農林水産業・地域の活力創造プラン」(平成30年6月1日改訂)では、持続的なビジネスとしての「農泊」によるインバウンド需要の取り込むため、持続的なビジネスとして実施できる農泊地区を500地区創設する目標を立てています。
- 高齢化や人口減少が進行している農山漁村では、「食」をはじめとする豊かな資源を活用して新たな需要を発掘する等により、農林水産業の振興と地域の活性化を表裏一体で進める必要がある。
- 今後増加が見込まれる訪日外国人旅行者の受入れも含めた農山漁村への旅行者の大幅拡大を図るため、DMO等と連携し、農山漁村に賦存する資源を活用した観光コンテンツの創出、ビジネスとして実施できる体制の整備を図る。
農泊推進対策で目指す農泊推進地域の体制
滞在型農山漁村を確立し、日本ならではの伝統的な生活体験と農村地域との交流を楽しむためには、宿泊施設の整備に加え、食事や体験などのバラエティに富んだ観光コンテンツを提供する必要があります。農泊の広がりを確保するために、多様な主体を構成員とする地域協議会を設置し、法人格を有する事業体(中核法人)が農泊地域のとりまとめを行う体制を整備していくことになります。
農山漁村振興交付金(農泊推進対策)
「農泊」を農山漁村の所得向上を実現する上での重要な柱として位置付け、インバウンドを含む観光客を農山漁村に呼び込み、地域の活性化を図ることが重要。○「農泊」を持続的なビジネスとして実施できる地域を創出し、農山漁村の所得向上と地域の活性化を図るため、ソフト・ハード対策を一体的に支援するとともに、国内外へのPR等を実施。
【平成30年度予算額:5,655(5,000)百万円】(平成29年度補正予算:345百万円)
農泊支援地域の採択状況(平成30年度段階)
- 平成29年度に205地域、平成30年度に147地域を採択し、日本全国で352地域が農泊推進に取り組んでいるところ。
- 500地域創出に向け、平成31年度には約150地域を採択予定。
H29農泊支援地域の現状(宿泊施設、レストラン、直売所等、体験プログラム開発、宿泊実績等)
- 平成29年度より農泊推進対策により支援を実施している地域(以下、H29農泊支援地域)(205地域)における、平成29年度の延べ宿泊者数は179万人泊であり、平成28年度より13万人泊増加。(8%増加)うち、平成29年度のインバウンド宿泊者は14万人泊であり、平成28年度より8万人泊増加。(112%増加)
- 体験プログラムは、平成30年11月末現在、事業開始前の平成28年度末より2,183件増加。同じく、食事メニューは880件増加。
- 農業体験プログラムのうち、冬期に実施されているものは全体の12% であり、春~秋期に比べ実施できるものが少ない。
H29農泊支援地域におけるインバウンド受入に向けた取組状況
- H29農泊支援地域(205地域)におけるインバウンド向け受入体制や、観光コンテンツの開発の取組状況は、約半数にとどまる。
インバウンド向け受入体制
Wi-Fi、洋式トイレ、キャッシュレス決済を整備した宿泊施設がある地域
- Wi-Fi…131/205
- 洋式トイレ…163/205
- キャッシュレス決済…89/205
ホームページ、パンフレット、施設の案内表示、インターネット予約を外国語で整備した宿泊施設がある地域
- HP…71/205
- パンフレット…62/205
- 案内表示…59/205
- ネット予約…63/205
インバウンド向け観光コンテンツの開発
インバウンド向けの体験プログラム開発…97地域/205地域
- 最東端のクルージング体験(北海道根室市)
- 稲刈り体験(静岡県湖西市)
- 武家屋敷着物茶道体験(鹿児島県出水市)
インバウンド対応の食事メニュー開発⇒66地域/205地域
- 46品目の発酵かご盛りランチ(島根県邑南町)
- 地元の食材を使ったフレンチ(京都府南丹市)
- ハラル対応農家民泊(青森県南部町)
H29農泊支援地域の体制整備の状況(中心的な役割を担う法人)
- H29農泊支援地域(205地域)では、平成30年度11月末において、中心的な役割を担う法人(以下「中核法人」という。)の設立状況は192法人(173地域)となっており、84%の地域で中核法人が設立されている。
- 平成30年10月~11月に行った現地指導の結果、残りの地域についても年度内の設立に目途が立っている。
- 中核法人の実施する主たる事業は、農林漁業関連(40法人)、観光協会等の非営利事業(35法人)、体験・ガイド(26法人)、宿泊事業(23法人)等である。
H29農泊支援地域の体制整備の状況(地域協議会)
- H29農泊支援地域(205地域)では、平成30年度11月末において、地域協議会が組織されている地域が172地域となっており、既に84%の地域で協議会が組織されている。
- 平成30年10月~11月に行った現地指導の結果、残りの地域についても年度内の設立に目途が立っている。
- 協議会の構成員は3,104(自治体含む)で、農林水産業、農林漁家民宿経営、協同組合といった農林漁業関連の事業者が約半数(48%)を占めている。
- 協議会あたりの構成者数が5以下の地域が全体の3割であり、構成者数が6以上10以下の地域を合わせると全体の66%を占めている。
- 平成29年度末において、地域協議会の構成員が管理・運営する宿泊施設は3,936施設(総収容人数107,216人)となっている。
「農泊」に係るプロモーション事業の実施状況
一般消費者に向けて、「農泊」の認知度向上を図りその魅力を伝えるため、海外のタレントやブロガーによる国内外への発信、シンポジウム、ターゲット地域を明確にしたプロモーション等を国が実施。→ 各農泊地域の情報については、国内向けにはポータルサイトを開設し、一元的な情報発信を開始したが、海外向けについては地域毎の取組に委ねられている。
平成29年度の取組実績
海外のタレントやブロガー等による国内外への発信
- エラワン・フサーフ氏を起用し、9月に東南アジア7地域で農泊地域(※)を紹介する動画のテレビ放映及びYouTubeで全世界へ発信(約225万回再生、H30 6/19時点)※石川県能登、長野県飯山、岐阜県飛騨古川、京都府伊根、兵庫県篠山、和歌山県秋津野
Erwan Heussaff
・フランス系フィリピン人
・8軒のレストランを経営する実業家・旅行家・料理研究家
・タレントとしてPVやCMに多数出演
・Instagramのフォロワーは約205万人(H30 6/19時点)
Umie
・台湾出身のブロガー
・日本の観光地の情報等を積極的に発信
・台湾Yahoo!トップページの掲載実績有
・ブログの閲覧数は月間約30万
Mira
・カナダ出身のYouTuber
・日本の観光地から面白い商品や興味を持った事をユーモラスに紹介
・YouTubeチャンネルは約23万人が登録(H30 6/19時点)
- 農泊の先進事例(12地域)を集めた「農泊プロセス事例」を作成…農水省ホームページに掲載するとともに、農泊シンポジウムでも配布
- 全国主要都市(14カ所)において、農泊の認知向上を目的としたシンポジウムを開催(平成29年7月~平成30年3月)
- 農山漁村の食の魅力を世界に向けて発信(SAVOR JAPAN)
平成30年度の取組状況
- 農泊地域を紹介する農泊ポータルサイトや農泊地域と料理人とのマッチング、海外プロモーション等の情報発信を積極的に展開。
- 農泊ポータルサイトの開設
- H29農泊支援地域(205地域)の情報を一元的に集約し、情報発信。
- 今後、平成30年度採択147地域も掲載。
- 農泊地域と料理人をつなぐデジタルプラットフォーム「サトChef」を始動
- 料理人と農泊地域が出会うシンポジウムやモニターツアーを実施。(モニターツアーでは、25品の新メニューを開発)
- 地域の受入れニーズの高い海外向けプロモーション
- 台湾や香港向けには、個人旅行層に対し、現地WEBサイトへの農泊紹介記事掲載、一般消費者参加型キャンペーン(モニターツアー)等を実施。
- 欧米豪向けには、現地WEBサイトの活用に加え、旅行会社等に対するセミナー・商談会を開催予定(H31年1月~2月)
- 国内一般消費者向けプロモーション
- 農泊に対する認知度を向上するため、テレビや新聞を活用し、広く一般消費者に向け情報発信を実施予定。(H31年2月~)
参考資料:農林水産省 農泊推進のあり方検討会
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