農水省の来年度予算2.7兆円から将来を読み解く

粉もんではないけど




先日、農林水産省から、「平成31年度農林水産予算概算要求」が公表されました。近年、大規模災害が多発し、我が国の食生活を脅かしていますが、自然災害への対策と経済発展の両輪はどのように考えられているのでしょうか。来年は新たな元号になる年でもあり、次の日本がどのように歩んでいくのか、将来を読み解く布石でもあります。

平成31年度の予算は2.7兆円(前年比18.5%増)

来年度の農林水産省予算概算要求は2.7兆円となり、今年度2.3兆円から約18.5%の増加となっています。予算ベースですので、必ずしもこの通りになるわけではありませんが、一般企業の対前年比売上高と比較すると、やや高いようにも感じます。
※当サイトは、財政に対する批判をするものではない。

さて、その内訳を見ると、公共事業に8,300億円、農業・農村整備に約4,000億円、水産基盤整備は比較し少なく850億円、災害復旧が190億円という配分となっています。

平成31年度農林水産関係予算概算要求のポイント

総額2.7兆円の概算予算要求には、次の思いが込められています。
それぞれ、聞いたことがあるような内容ですが、改めて、確認したいと思います。
※複数の項目で「再掲」があるため、合計は予算額と一致しない。

  1. 担い手への農地集積・集約化等による構造改革の推進…2,632億円
  2. 水田フル活用と経営所得安定対策の着実な実施…8,103億円
  3. 強い農業のための基盤づくりと「スマート農業」の実現…10,906億円
  4. 農林水産業の輸出力強化と農林水産物・食品の高付加価値化…293億円
  5. 食の安全・消費者の信頼確保…109億円
  6. 農山漁村の活性化…1,065億円
  7. 林業の成長産業化と生産流通構造改革の推進…3,552億円(再掲1,100億円含む)
  8. 水産改革を推進する新たな資源管理と水産業の成長産業化…3,415億円(再掲1,100億円含む)

平成31年度農林水産関係予算概算要求の重点事項

予算の内容を見れば、国の考えている日本の農林水産の未来が、わずかですが見えてきます。

詳細は「平成31年度農林水産関係予算概算要求の重点事項 」でどうぞ。

気になったことだけ、抜粋します。

農業経営法人化支援総合事業…12億円

円滑な経営継承や農業の「働き方改革」に資する労働環境の改善など農業経営上の諸課題に対する関係機関と連携した経営相談体制を整備すること等により、農業経営の法人化等を支援

農業版事業承継・経営支援ですが、農業経営の法人化の支援があります。今後、日本の農業は法人化を通じ、ITや設備等の効率化投資を行い、少ない人数でも、生産性の高い農業を目指していくことになりそうです。

農業人材力強化総合支援事業 …238億円

次世代を担う人材を育成・確保するため、就農前後に必要となる資金の交付(農業次世代人材投資事業)、雇用就農を促進するための農業法人での実践研修(農の雇用事業)のほか、農業者が営農しながら経営ノウハウを学ぶ場(農業経営塾)の展開や「働き方改革」の実践による労働力確保を推進する産地等を支援

農業法人化を増やしていくにあたり、そもそも農業で起業しようという人材を育てる、という視点です。農業法人化といっても、IT業界や製造業でも小規模の中小企業もありますので、いきなり大農場を経営する、という訳ではありません。農業のスキルに応じて、経営を学びながら、「農業で食っていく」ということもできるのです。

水田活用の直接支払交付金 …3,304億円

米政策改革の定着に向け、飼料用米、麦、大豆等の戦略作物の 本作化とともに、産地交付金により、地域の特色のある魅力的な 産品の産地の創造を支援

水田を活用して、飼料用米、米粉用米、麦、大豆等の作物を生産する農業者に対し、交付金を直接交付するためのお金です。水田が多すぎるので、ほかの作物作ってね、というインセンティブです。食糧戦略に重要な考え方です。

戦略作物助成として、平成30年度は以下の金額が示されています。
出典

  • 麦、大豆、飼料作物※…35,000円/10a
  • WCS用稲…80,000円/10a
  • 加工用米…20,000円/10a
  • 飼料用米、米粉用米…収量に応じ、 55,000~105,000円/10a
    ※ 子実用とうもろこし(飼料用)を含む

10aは100平方メートルですので、およそ10×10mのサイズ感です。

米粉の需要拡大・米活用畜産物等のブランド化等 …1億円

米粉の需要拡大や飼料用米を活用した畜産物等のブランド化等 の取組を支援

もはや個人的な考え方の問題なのですが、米粉さんに1億円の予算しか出せないのかっ!という感じですが、仕方ないです。米粉さんは小麦より汎用性が低いのですから。需要拡大で思いつくのは、せいぜい、ベトナムのライスヌードルであるフォーくらいです。

畑作物の直接支払交付金 …1,985億円

麦、大豆、てん菜、でん粉原料用ばれいしょ等の畑作物を生産する認定農業者等の担い手に対し、経営安定のための交付金を交付

これも、水田活用の直接支払交付金同様の交付金です。参考までに、平成29年度中の支払い実績は1,985億円(※出典)であり、平成31年度も同額を見込んでいます。

ここで気になる「てん菜」ですが、砂糖の原料にもなる大根のことです。こちらのページ(独立行政法人農畜産業振興機構)に詳しいです。

てん菜
てん菜

持続的生産強化対策事業 …224億円

産地の持続的な生産力強化に向けて、農業者や農業法人、民間 団体等が行う生産性向上や販売力強化に向けた取組や、地方公共 団体が主導する産地全体の発展を図る取組を、関連事業における 優先採択と併せて総合的に支援

持続的生産強化対策事業には、以下が含まれています。
野菜や果物、お茶やお花など、どうやって支援していこうか、ということです。

  1. 野菜・施設園芸支援対策…水稲からの作付転換による新たな園芸産地の育成、加工・業務用野菜への転換、施設園芸における生産性向上と規模拡大を加速化する取組等を支援
  2. 果樹支援対策…果樹の生産・供給体制を強化するため、優良品種・品目への改植やそれに伴う未収益期間に対する支援を行うとともに、省力樹形の導入に必要となる苗木生産体制の構築のための取組等を支援
  3. 茶・薬用作物等支援対策…茶や薬用作物など地域特産作物について、地域の実情に応じた生産体制の強化や需要の創出等に関する取組を総合的に支援
  4. 花き支援対策…花きの生産拡大を図るため、品目ごとの特徴に応じて、生産から流通・消費拡大に至る一貫した取組を支援

 

畜産・酪農経営安定対策 …1,756億円

意欲ある生産者が経営の継続・発展に取り組める環境を整備するため、畜種ごとの特性に応じて畜産・酪農経営の安定を支援

<経営の安定化を図るのと同時に、経営の省人化は必須です。そのためにも、畜産・酪農の分野にもICT技術の導入は欠かせません。先端技術と一次産業を結びつけるプロフェッショナルの存在が必要となると思います。

ICTを活用した畜産経営体の生産性向上対策 …224億円

酪農家や肉用牛農家の労働負担軽減・省力化に資するロボッ ト・AI・IoT等の先端技術の導入や、畜産農家に高度かつ総 合的な経営アドバイスを提供するためのビッグデータ構築を支援

グローバル産地の形成支援 …2億円

グローバル・ファーマーズ・プロジェクトを推進するため、輸出に積極的に取り組もうとする産地・農業者等によるコミュニティの形成とともに、グローバル産地の形成に係る計画の策定や同 計画に基づくソフト面・ハード面の各種メニューを活用した産地形成、コメの輸出向け低コスト生産の取組を支援

グローバル・ファーマーズ・プロジェクトは小泉進次郎氏を中心とした自民党の農林部会がまとめ上げた提言です。日本は輸出に関しては、途上国であるという位置づけから、これを高めていこうというものです。貿易(トレーディング)という視点では、不足するものを交換するという機能が基本であるため、「何が相手国にとって不足しているのか」という視点で攻めていく必要があるかと思います。目下、農作物の「ブランディング」による輸出が多いように感じますが、この一点に限らず、超廉価版農作物の開発・輸出も必要であろうかと思われます。

また、貿易の最大のコストとリスクは運賃ですので、生鮮食品を短時間で相手国へ届ける新たなイノベーションも必要です。

中山間地農業ルネッサンス事業<一部公共> …500億円

傾斜地等の条件不利性や鳥獣被害の増加など中山間地農業が置かれている状況を踏まえつつ、地域の特色を活かした多様な取組を後押しするため、多様で豊かな農業と美しく活力ある農山村の実現や、地域コミュニティによる農地等の地域資源の維持・継承に向けた取組を総合的に支援

ルネッサーンスッ!と大々的なキャッチコピーを打って出てきましたが、農村振興の一手法です。農林水産省のHPには、以下の通り記載されています。

食料生産の場として重要な役割を担う中山間地は、傾斜地などの条件不利性とともに鳥獣被害の増加、人口減少・高齢化・担い手不足等、厳しい状況に置かれています。その一方で、平地に比べ豊かな自然、景観、気候、風土条件を活かして収益力のある農業を営むことができる可能性を秘めた重要な地域でもあります。
このため、女性や高齢者を含め経営規模の大小にかかわらず意欲をもった前向きな経営者が活躍できる多様な経営を育み、清らかな水、冷涼な気候、棚田の歴史等の中山間地の特色を活かした経営の展開を通じて、中山間地農業を元気にしていく必要があります。
これらの状況を踏まえ、平成29年3月31日付けで中山間地農業ルネッサンス事業実施要綱・要領を定めるとともに、この制度により、中山間地の多様な取組を後押しします。

農林水産省は、国民の「食エネルギー」の安定的確保が主な目的です。そしてそれを維持する国民への支援、さらにはそこで暮らす人々の文化的な支援へと掘り下げていくことができます。

国の政策は、国民への説得力が高く数字で示すことができる「収益」という視点に集約されがちですが、純粋に、「清らかな水、冷涼な気候、棚田の歴史等の中山間地の特色を活かした経営の展開を通じて、中山間地農業を元気にしていく」という表現は、農林水産省の「地域に対する思い」を感じることができるものです。

「農泊」の推進…63億円

増大するインバウンド需要等を呼び込み、農山漁村の所得向上を図るため、「農泊」をビジネスとして実施できる体制の構築や地域に眠っている資源の魅力ある観光コンテンツとしての磨き上げ等の取組、古民家等を活用した滞在施設、農林漁業体験施設等 の整備を一体的に支援(このほか、国有林において、多言語による情報発信、木道整備等を実施)

海外からの観光客を対象とした農家に宿泊するビジネスの推進です。個人的には、古民家を活用した滞在施設に関与したいところです。古民家ほしいです。農泊を通じて、日本的な考え方が世界に理解されるとよいですね。

鳥獣被害防止対策とジビエ利活用の推進 …124億円

鳥獣被害対策実施隊の増設・捕獲活動の一層の強化、侵入防止 柵の設置やICTを活用した「スマート捕獲」等の鳥獣被害防止 対策とともに、ジビエ利活用の拡大に向けたモデル地区の横展開 を支援するほか、森林被害防止のための広域・計画的な捕獲等を モデル的に実施

鳥獣被害で大活躍しそうなテクノロジーといえば、オオカミ型のロボット「スーパーモンスターウルフ」がありますが、これらにも開発予算が付くのでしょうか。
ジビエは少しずつ認知されてきていますが、安定提供されるものではありませんので、「食べに行こう」としない限りは、口にすることはなさそうです。近所で食べられるようになるのでしょうか。

先端的養殖モデル地域の重点支援 …16億円

養殖業の成長産業化に向けて、輸出等を視野に入れ、大規模沖合養殖システムの導入や新技術を用いた協業化の促進等による収益性向上のための実証等の取組を支援

水産物の養殖技術の確立は何よりも急務だと思います。ウナギ代替品としてナマズなど技術開発が進んでいますが、田んぼでできる養殖技術も欲しいところです。養殖技術の確立は、時間と費用が相当かかりますので、16億円で足りるのか心配です。

増養殖対策 …22億円

養殖業の成長産業化に向けて生産から販売・輸出に至る官民の 関係者が一体となって取り組む枠組みの構築、低コスト・高効率飼料等の開発、サケの回帰率向上に必要な稚魚生産能力に応じた放流体制への転換、広域種の適切な放流費用負担の仕組みの構築、ウナギ等の内水面資源の回復と適切な管理体制の構築等を支援

 

以上のほかにも魅力的な計画がたくさんあるようです。
農林水産業は自然環境の変化などにも影響を受けやすく、技術革新がなかなか進みにくい産業ですが、ICTなど他の先端技術と結びつくことで、労働集約的な働き方から、ほんの少しでも生産者が楽になるような技術開発が進むことに期待です。

 

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